その日は、なぜか「レゲエの風を感じたい」という気持ちになった。
よみうりランドEASTで レゲエ・ジャパンスプラッシュ がやっていると知り、当日券を買いに行くことにした。
駅に向かう途中、さっそくダフ屋がいた。
「兄ちゃん、チケット余ってるよ! いい席あるよ!」
声をかけてくる。
俺は“貧乏学生の心得”として、無視を決め込んだ。
するとダフ屋が焦ったのか、最後にこう叫んだ。
「定価で! 一番良い席!!」
——なぜ追い詰められた側みたいになってるんだ、あんた。
結果、なぜか本当に一番良い席を定価でゲットしてしまった。
ダフ屋より正規販売の方が弱気ってどういう構造だよ、と自分でも思った。
■会場の空気がすでにレゲエ
会場に入ると、もういろんな意味で“自由”だった。
・丘の上で酒飲んで寝てる人
・昼から踊ってる人
・サングラス率80%
・陽気とは違う種類の陽気な人々
ステージでは ジョー山中 と P.J. が出演するらしい。
なんか豪華だ。
しかし、会場の自由度は音よりも視覚でわかる。
■トラブル発生(放置型)
ふと前の方を見ると、
女性客に黒人の兄ちゃんがめちゃくちゃしつこく話しかけていた。
「イエーー、ベイベーー、一緒にダンスしよーー」
女性は明らかに困っている。
俺は“これは警備員案件だろ”と思って近くを見ると、
警備員(双眼鏡でステージを見ている)
……仕事して。
女性が何度か逃げても追いかけられ、
周囲の客も「まあレゲエだしな……」という謎の空気でスルー。
——レゲエの自由度……高すぎない?
■メインバンド登場
そして、ついにメインバンドが登場した瞬間——
音が違う。
体の芯にくる“ドンッ”が違う。
リズムの解像度が違う。
空気を押してくる圧力が違う。
(あ、これが……本物ってやつか……)
さっきまでの日本人バンドは悪くない。
悪くないけど、こう言ってしまうしかない。
——違う生き物だ。
観客のテンションが一気に跳ね上がる。
丘の上で寝てたやつも起きる。
さっきのしつこい黒人も踊り始め、女性はそっと距離をとった。
■謎のダンス輪に召喚される
俺は座席で観ていたのだが、
気づくとアリーナ付近で踊ってる集団が、なぜかこっちに手を振っている。
「Come on!! Come on!!」
いや、俺は踊るつもりで来てない。
当日券の文化系なんだ。
「Comeeeee on!!」
こうなるともう逃げられない。
流れがレゲエ。
俺は気づいたらその“踊る輪”に吸い込まれていた。
そして一緒に踊りながら気づいた。
(なんで俺、知らない人たちと円陣組んで踊ってるんだ……?)
しかし音の波が強すぎて、考える余裕も消える。
なぜ踊っているのか不明。
だが楽しい。
だが意味はない。
だがレゲエは合理性の外側にある。
気づけば日が暮れて、汗だくのまま輪から抜けた。
全員、何事もなかったかのように散っていった。
……なんだったんだ、あれ。
■帰り道
駅へ向かう坂を歩きながら思った。
・ダフ屋に無視したら神席
・ジョー山中の声の厚み
・放置される客トラブル
・本物バンドの音圧
・謎のダンス輪
今日の出来事をまとめる言葉は一つしかない。
レゲエ、自由すぎる。